« 第52章 ポチが失踪した日(1) | トップページ | 第54条 ポチを捜す日々(1)  »

2005/12/04

第53章 ポチが失踪した日(2)

 平成16年8月12日の夕方、私達は懸命にポチを捜し続けていた。西日は容赦なく私達を照らして、体から汗を噴出させていた。遅れて帰宅した弟も加わり、総出での捜索となった。
 
 ポチは、私達が荷物運びを終えて一息ついた午後4時20分頃から、甥がポチがいないことに気付く4時40分頃までの僅か20分間に、失踪したことになる。蝶々結びにしてあったリードとナイロン紐の結び目を引っ張って解いたのであろう、首輪とリードを付けたまま、消えてしまっていた。
pochi_17
 捜索当初は、ポチはすぐにでも見つかるものと思っていた私であったが、やがて1時間が過ぎようとした頃には、尋常でない事態に陥ったことを悟り、夏の日差しの中をさまよっているであろう老いたポチのことを考えると、身をよじるような思いになっていた。

 体を懸命に歩かせながら目と声で捜す一方、私の頭は体から遊離して、幾つかの思いが取り付かれたようにグルグルと回っていた。ポチは水を飲めているのか?なぜポチは離れてしまったのか?一刻も早く見つけてやらなければという焦り、N先生に預けておけばこんなことにならなかったのにという後悔、そして、どうしてしっかりリードと紐を結んでおかなかったんだという家内を詰る思い、であった。しかし、何回か家の周囲を捜した後、田んぼの方を捜そうとして坂を下っていたとき、田んぼを探し終えて坂を上ってくる家内の必死の形相を見た瞬間、この家内を詰る思いは消えうせ、一生口にするまいと心に決めたのであった。
 
 何の手掛かりもなく7時を過ぎ、辺りを夕闇が包み始めていた。とりあえず夕食を摂り、夜、再び捜すことにした。
年老いた両親、弟家族にこれ以上手を煩わしてもと思い、私達だけで捜すことにした。
 夜、ライトを照らしながら捜せば、動物の目はライトに反射して光るので、ポチが藪の中等、物陰に居ても分かるのではと家内も言った。後で冷静に考えると、胸に手を当てるだけで動きが止まる状態のポチが、足元に何本もの竹が折り重なった藪の中に入り込むことは、不可能であった。
pochi_18
 夜の捜索も結果を得ることが出来ず終わった。ポチが遠くへ行けないことを考えると、どんなに広くても1キロ四方の範囲と思われ、探す場所も限られてしまい、同じ場所をグルグル捜すことになってしまっていた。
 この日朝早く、神奈川県から長旅をしてきた私達は、肉体的にも精神的にも疲労の極に達しようとしていたので、明朝早く起きて捜すことに決めた。

 実家の2階の私達の部屋で、疲れ切った私は、うつらうつらとしては目覚め、またうつらうつらとする夜を過ごした。となりに寝ている家内の様子を伺うと、小刻みに肩が震えているのが分かったが、そっとしておいてやるしかなかった。実家の近郊では、田舎のことでもあり、まだまだ長男の嫁の努めという風習が残っている。
 家内はポチを捜すことと共に、その努めもこなさなくてはならず、昼間ポチを捜しながらも涙を見せることなく気丈に振舞っていたが、夜床についてから、込み上げてくるものがあったのである。
 
 私は、夜中何回か階下に降り、勝手口の土間を覗いた。勝手口の戸は、夜、ポチがいつ帰って来ても入れるように、30cm程開けてあった。しかし、何回覗いても、ひょっとしてポチが帰っているのではという私の淡い望みはかなえられなかったのである。
                                つづく 

|

« 第52章 ポチが失踪した日(1) | トップページ | 第54条 ポチを捜す日々(1)  »

コメント

ゆきさん、コメントありがとうございます。
コメントに書かれた犬のように、実際のところポチも、私達には分からない実家のすぐ側で眠っているような気がします。そうだとしたら、私達にとっても大変幸せなことです。
ゆきさんのコメントに家内も久しぶりに近くにポチを感じて、涙ぐんでいました。

投稿: 益樹 | 2005/12/05 21:24

そうでしたか、結局見つからなかったのですね。
当時の益樹さんと奥様のお心内を思うと、胸が詰まる思いです。
それにしても、ご家族総出で探しても見つからないとは、ポチちゃんはどこへ行ってしまったのでしょうか。
父の田舎で飼われていた犬がやはり最後は身を隠したのですが、半年ぐらいして家の工事のときに縁の下から見つかりました。
住み慣れた家の縁の下で、家族の声を聞きながら最後を迎えたんだろうと、みな話し合っていました。
ポチちゃんもきっと益樹さん達を感じられる場所で眠りについたのではないでしょうか。
ひとりぼっちではなかったように思います。

投稿: ゆき | 2005/12/05 09:17

ばあやんさん、再度コメントありがとうございます。
確かに辛い別れでしたが、それ以上に楽しい思い出をいっぱいくれたポチは、間違いなく私たちの自慢の家族の一員だったことは間違いないことです。

投稿: 益樹 | 2005/12/04 16:21

そういう結果だったのですか。
私も今ちょっと体が震えました。
涙が出てきそうです。
こんな別れもまたつらいですね。

先日田舎に帰ったとき、犬好きの親戚が来ていて、犬はさよならのときは、姿を消すと言っていました。
その家の犬も2度ほど、縄を切って姿を消したそうです。

投稿: ばあやん | 2005/12/04 15:29

ばあやんさん、お早うございます。いつもコメントを頂きありがとうございます。
結果からいいますと、ポチはこの8月12日をもって、私達の前から永遠に姿を消しました。この日以後、保健所、警察など関係機関に届けたり、実家の庭の道路沿いに老犬捜索の看板を立てたり、地方紙に捜索の記事を掲載したり、あらゆる手立てを講じましたが、手掛かり無く今日に至っています。一時期、軽いペットロス症候群にもなりましたが、いつまでも私達が立ち直れないことは、ポチにとっても本意でないと悟り、元気になりました。

投稿: 益樹 | 2005/12/04 09:57

今日は見つかった記事かと思っていましたが、その日のうちに見つからなかったのですね。
奥様の様子を思い、こちらまで胸の詰まる気持ちでした。

投稿: ばあやん | 2005/12/04 09:36

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/81356/7455330

この記事へのトラックバック一覧です: 第53章 ポチが失踪した日(2):

« 第52章 ポチが失踪した日(1) | トップページ | 第54条 ポチを捜す日々(1)  »