第29章 ポチの友達・ゴメちゃんの思い出
ポチには散歩中に出会う犬の友達が何匹かいた。ポメラニアンのオスで「ゴメ」という名の犬とは、お互い大変に気が会っていた。
我が家と同じくゴメの飼い主さんも、ご主人と奥さんが交代で散歩をされていた。
家内とポチが散歩をしている時、奥さんと散歩中のゴメがポチを見かけると、ダッシュで駆け寄ってきて、ひとしきりポチとじゃれ合った。その様子を見ながら家内と奥さんは、犬についてのよもやま話をしていたようである。
私がポチを連れていて奥さんとゴメに会うと、奥さんは「ポチ!今日はお父さんと一緒だね!」と必ず声を掛け下さった。その時はゴメもポチも「ヨッ!今度またな!」といった具合で、お互い軽くスキンシップして通り過ぎていた。
ゴメがご主人と散歩の時、ポチを連れた家内が何かしら声を掛けても、ゴメはお父さんの前では「キリッ!」と、優等生として清ましていたそうだ。そして私とご主人の場合は、男同士軽く会釈する程度で、犬同士も素っ気なかった。
そんなゴメが癌に侵されたのである。食欲が無くなり、歯か顎を気にしている様子だった。「虫歯かな?」と思われ獣医師に彼を診てもらったところ、顎の所に瘤が巣くっていたのである。
取り合えず手術を受けたが、獣医師からは「手術をしても、この癌では残念ながら余命は6ヶ月程でしょう。」と、宣告されたとの事だった。
手術後のゴメは、顔の相こそ少し変わったが、奥さんと一緒の場合は、相変わらずポチとじゃれ合い元気そうであった。「元気になって良かったね!ゴメちゃん!」という会話が、家内と奥さんの間で続いていた様だ。
その日、ポチが家内と散歩していたときのことである。突然ポチが、いつもの散歩コースより一本手前の道を、自ら歩き始めたそうだ。その道をしばらく歩くと、向こうの方から奥さんが「ポチィ~!」と声を掛けながら歩いて来られたそうである。ポチも奥さんを目指して、尻尾をフリフリ駆けていった。
奥さんはポチの前に座り「ポチ、ゴメちゃん死んじゃった!」と、彼の頭を撫でながら泣き出された。
ポチはその悲しみを慰めるが如く、奥さんの頬から溢れ出る涙を嘗め回していた。
奥さんはポチの首に手を回し、「有り難う!有り難う!」とポチを抱きしめられていた。
ゴメは獣医師の宣告通り、手術後6ヵ月で天国に旅立って行ったのである。家内と奥さんは「今日、どうしてこの道を、ポチが選んだのか?」「ポチの奥さんへの行動?」「“犬”って不思議!凄いですね!」、奥さんが落ち着きを取り戻され、いつもの様に話が弾み出すと、ポチも安心したのか、「さぁ行くよ!」と日常の散歩コースに戻ったのであった。
つづく
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